大きな温度変化、それも急激な変化による膨張・収縮が「バルサム切れ」を生じさせているのだと仮定すると、それを増長加速させることで剥離に至ることが期待できます。その増長の手段として、公開されたある成功例では、オープンでの160℃程度の加熱を行っています。しかしながら、これには冷風が当たることによる急冷によってレンズ破壊のリスクをはらんでいるので、決して安全な方法とは言い難いものがあります。さらに、剥離のためには高温になったレンズの接着面に対して横向きの応力を加える必要があり、とても素手では持てないそれに対して作業を可能とするためには、何らかの器具などの工夫が必要であろうと思われます。
そこで亭主が考案したのが「冷凍・熱湯法」です。ガラスというものは、急冷却より急加熱の方が、言い換えれば急収縮より急膨張の方が破壊のリスクが少ないと考えました。また、最高100℃にしかならない熱湯利用の方が、作業上の危険も小さくできると考えました。家庭用の一般的な冷凍冷蔵庫で得られる低温は-20℃程度ですが、これと熱湯との温度差は120℃になります。これによる急膨張によって接着面の横ずれを惹起せしめれば、剥離という目的は達せられるのではないかという仮説を立てたのです。
この仮説に基づく実際の作業としては、まず貼り合せレンズを冷凍庫に入れてキンキンに冷やします。半日程度は入れておきましょう。大きめの丼などに熱湯を入れ、電子レンジで沸騰状態にします。これに対して冷凍したレンズを投入します。「ピシッ」という音を発する場合があり、それは「バルサム切れ」の亢進する音のようです。これをそのまま電子レンジで2分程度加熱して沸騰を継続します。その後丼を取り出し、水を加えて手が入れられる程度の温度にします。約50℃弱ぐらいでしょうか…湯の中で両手でレンズを掴み、接着面に対して平行に力を加えると、接着面が十分に剥離している場合は「ぬるり」という感覚で剥がれます。接着面から化学系接着剤特有の臭いが立ち上るはずです。
この方法で最初に成功したのは2011年6月1日のことです。何回か冷凍から始まる一連の手順を繰り返して後の成功でしたが、亭主のその後の実験では、この一連の手順を2回施行したところで剥離に至った例があります。 「バルサム切れ」した貼り合せレンズ6枚にこの方法を施行しましたが、行ったすべてについて安全な剥離に成功しています。
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